ひきこもりの方へ

まずはじめに

 楽になりたい、抜け出したい。何かそのための手掛かりはないだろうか。そういう切実な思いを持ってこのホームページをご覧になっていることと思います。出来るだけその思いにお応えしたいのですが、今私はこのホームページに何か文章を載せることしかできません。また、多くの専門家が仰られている通り、ひきこもりの要因は人それぞれで、こうすれば確実に治るという方法は残念ながらありません。

  • 「引きこもりは理解ある他者との交流を通じて生きる活力を取り戻せる」という信念は持っておりますが、その段階にたどり着ける方はそれほど多くはないのです(理由は後述)。

ですので、以下私の回復してきた道のり、すなわちお勧めする道のりを載せますが、これがあなたのお役に立つかどうかはわかりませんし、お読みになって参考にされた結果の一切に責任は持てませんし持ちません。冷たいですがご了承ください。何か少しでもよい変化が生じることは願っております。

あるがままの自分を認識する

 お説教でもきれいごとでもありません。本当に重要な事で、しかも大変に困難なことです。例えばですが、ひきこもり支援団体に来ていて、外から見ると明確に引きこもりなのに、自分は引きこもりではないと思っている人がいました。「俺はこんな(低いレベルの)人間ではないが、参考のために来てやった」と目が語っていました。その人はしばらくしてこなくなりました。私は折角のチャンスを逃されて残念だなあと思うと同時に、その人にはまだ時が来ていなかっただけかもしれない、と思いました。あなたは大丈夫ですか。

 あるがままの自分を認識する時など、来ないほうが幸せです。大抵の人は認識せずに生きています。認識しないから無事に生きていられるといってもよいです。

  • 容姿がさほどでもないのに服や化粧品にお金をかけれる人、自分となんの関係もない馬の着順に一喜一憂できる人(多少金を賭けてようがいまいが)など、例には事欠きません。
  • 私自身、約20年間自分がひきこもりである事を意識していませんでした。21年間の心理カウンセリングに守られて、気づかないで生きて来れたのです。カウンセリングが終結して2か月後、私ははたとおぞましく惨めな本当の自分、あるがままの自分を認識したのです。そしてうつ病への扉が開き、自殺未遂を起こしました。詳しい話は飛ばします。私の話はどうでもよいのです。今は、私はあるがままの自分を認識「した」のではなく「させられた」、つまり自分の意志であるがままの自分を認識するのは困難だということをよくわかっていると、あなたに理解していただければ十分です。

 ですが、残念ながらあるがままの自分を認識することが、次の段階に進むためには避けられないことなのです。あなたの場合、もっと穏やかな形で気付きが来ることを切に願います。

もう誰かの助けを借りるしかないと切実に思う

 自力でなんとかしよう、できるだろうという考えを捨てることです。理想の自分と現実の自分とのギャップから身を守るため、どんどんプライドが高くなっていってしまってはいませんか。もう十分一人で戦ってきたのではないですか。人の助けを借りるのは恥だというようなこだわりを捨てましょう。

 他の人は怖いですか?信用できないですか?その気持ちはよくわかります。ひきこもりという脛に傷ある身では、他人に会うのは大きな賭けです。しかし、追い込まれれば怖いだの信用できないだの言っていられなくなります。できればその前に思い切って他人の助けを求めてほしいのです。

  • 私の場合、自殺未遂を起こし、別居していた両親の家に身一つで転がり込んでから一月は、なおも自分で自分を治そうとしていました。うつにはセロトニンを増やすのがよい、それには日光浴だと毎日歩き、三食きちんと食べたので、体重も元にもどり、一旦元気になりましたが、すぐに心的エネルギーが切れ、ベッドの上で寝たきり状態になりました。一日中天井を見て過ごし、頭の中がどんどん天井の色、すなわち真っ白になっていきます。どんどん物が考えられなくなっていきます。怖い。どうしよう。誰か助けて。両親は食事は出してくれましたがこういう問題にはお手上げなのです。なんとかしないと。誰かに助けを求めないと。その一心でした。

【重要】精神科医・心療内科医に助けを求める

助けを求める一番始めの誰かとして精神科医・心療内科医を選ぶ

 ここが一番ハードルの高い所ではないでしょうか。十中八九あなたは反発しているはずです。助けが欲しいが精神病患者となるのは怖いと思われることでしょう。社会的に烙印を押されるのではないか、精神病棟に強制入院させられて人権を奪われるのではないか、薬漬けにされるのではないか、等。いずれも妄想ではなく、頼る相手を間違えれば実際に起こり得る話です。簡単に決断できることではありません。

  • 私も決断に至るまで筆舌に尽くしがたい苦しみを味わいました。
  • 他の私が考えた上で取らなかった選択肢は以下の通りです。
    1. 地域の公的機関に相談する(例えば京都市こころの健康増進センターのような)
      • 公的機関ですから秘密は守られるでしょうから、比較的ハードルが低いですが、相談相手が専門職かどうかに疑問が残りました。人事異動で数年で担当から外れるような一般職員かもしれません。それに、結局精神科・心療内科に行くことを勧められたり、ひきこもり支援団体に相談することを勧められたりすると思うので、二度手間になると思いました。
    2. ひきこもり支援団体に相談する(参考:京都府ひきこもり支援情報ポータルサービス
      • 民間団体なので秘密が守られるか当時は信用できませんでした。上記のサイトで約30ある団体の中から候補を2~3絞り込みましたが、決断はできませんでした。ですが、精神科・心療内科に行くよりはましだとも思っていました。
    3. 心理カウンセラーに相談する
      • 良いカウンセラーもいらっしゃるでしょうが、医師制度のような強固な社会システムのない現在、自力でまともな方を探し出すのは難しいと思いました。医療機関に所属しているカウンセラーを選ぶのが無難かと思いますが、そのカウンセラーに出会う前に精神科医・心療内科医の診察・許可が必要な場合がほとんどです。つまり、始めから精神科医・心療内科医に助けを求めるのと一緒です。

どの精神科医・心療内科医を選ぶか

 仮に精神科医・心療内科医に助けを求める決断が出来たとします。さて、どこの誰に?この問いに進む前にあなたにぜひ知っておいていただきたいことがあります。それは、「初診の重要性」です。まともな精神科医・心療内科医なら初診(初めて患者と会う時)を大切にし、時間を掛けます(30分程)。患者も初めてですから自分の溜まった感情をぶつけますし、それは大変情報の濃いもので、優秀な医師ならほぼ全体の見立てがつくそうです。逆に言えば、医師が時間をかけて診てくださるのは基本的に初診の一回きりです。後は5分、10分という場合が多いそうです(優秀な医師ほど患者が多く大変にお忙しいのです)。患者の側でも、一旦感情をぶつけてしまえば、2度目3度目は同じようには語れないでしょうから、医師に濃い情報を伝えられるのは一度きりです。私はこのようなことを知っていましたので、どこの誰に?の段階でも相当悩みました。

  • なお、初診はこのように重要なものですので、医療機関によっては申し込んでから数か月待ち、もしくは新規受付停止の場合があります。ご承知おきください。

 医療機関の公式ホームページから2ちゃんねるに至るまでいろいろ調べまして、私が望ましいと考えた医師の条件は以下の通りでした。

  1. 初診を大切にする医師
    • 時間を取るのももちろんですが、直接話を聞いてくださる方。中には、自分の時間節約のため他の人に聞き取りを任せてしまう方もいます。酷いところになると問診票を独りで書かせてから患者の顔も見ずそれを読むだけ、という方もいるそうです。
  2. 相性の良い医師
    • 他の診療科と違って、精神科・心療内科では相性が重要です。最終的には運ですが、公式ホームページのイメージや口コミを参考にできるだけ相性の良い方を絞り込みましょう。ですが、まともな方ならコミュニケーション力がすごく高く、こちらに合わせてくださいますので、あまり心配せずとも良いかもしれません。
  3. 常勤の医師
    • 信頼できる医師が常にあるところにいらっしゃる、いざとなれば会える、というのは大きな心の支えになります。また、精神科・心療内科の治療は数年の長期に渡ることも多いので、ずっと見て頂ける可能性が非常勤の医師よりも高いです。薬だけで治る方なら良いのですが、医師との対話が必要な方の場合、医師が変わると治療面でほぼ一からやり直しになってしまう部分が発生するでしょう。非常勤の医師に診て頂くなら、もし転勤の際には追いかけていくぐらいのつもりでいた方がよいです。
  4. 待てる環境にある待合室をお持ちの医師
    • 精神科・心療内科の場合、予約制であっても1時間待ち、そうでなければ(先着順など)4~5時間待ちなど当たり前です。あなたは毎回待つことができますか。ぜひ自問自答してみてください。理想はスタッフの声掛け、目配りが行き届いていて、あたたかな雰囲気で入った瞬間もう癒されるような待合室です。駄目なのは冷たい廊下に椅子がただ並んでいるだけ、のようなところです。
  5. ひきこもりに理解のある医師
    • 別にひきこもり専門の医師でなければならないとは思いませんが、理解がある方が良いでしょう。ひきこもり支援団体の紹介をしていただけるかもしれません。
  6. 心理カウンセラーやデイケアと連携している医師
    • 医師と対話できる時間は特に短いので、必要とあらば心理カウンセラーを紹介していただける医師の方がいいと思います。デイケアも重要ですが、大抵のところでは統合失調症の方が主な対象ですので、そうでない方はあまり関係のない話かもしれません。
  • あと、やたらとマスコミに登場したり読み切れないほどの本を出しているような医師は論外です。本物はそんな時間持てません。

 この条件に合う医師のいる医療機関を探すと、私の場合二か所が選択肢として残りました。大きなところと小さなところです。規模が大きい方がなにかと良いのでしょうか。それともおとぎ話の「舌切り雀」のように、ちいさなつづらを選んだ方が良いのでしょうか。いくら悩んでも答えが出ないので、勇気を振り絞って「初診ですがどうしたらよいのか」という内容の電話をかけてみました。大きなところは事務的で、小さなところは温かみのある対応でした。これで簡単に答えは決まりました。

実際に精神科医・心療内科医と出会う

 とはいえ、やはり初診当日は暗澹たる思いで一杯でした。もう自分は精神病患者、すなわち社会から烙印を押された存在になってしまう、でもこのままでは精神がもたない、どうしようもない。8月の暑さの中、道に迷って熱いアスファルトの路面の上で立ち尽くしたとき、本当に帰ってしまおうかと思いました。しかし今帰っても寝たきりの生活になるだけだ、と必死に自分を抑えてなんとか医療機関の入り口に着き、ドアを開けました。

 

 開けてみますと、ごく普通の雰囲気で拍子抜けしました。どこにでもある内科のような雰囲気です。14~15人待合室にいましたが、おかしな人は誰もいません。受付も別に普通のカウンターで、鉄格子とかありません。「初診です」と伝えると、「名前と住所と電話番号をお書きくださいね」と紙を渡されました。問診票はありません。その日は二人先生がおられて、順番が回るのが早いからという理由で非常勤の先生を勧められましたが、「いや、別の曜日に来たいときもあるので」と常勤のT先生に担当していただけるようお願いすると、快く了解していただけました。

 

 もうだいぶ落ち着いたのであたりを見渡す余裕も出来ました。待合室はホームページで見た通り、大きな楕円形の木のテーブルや布張りの椅子やソファーで構成された、温かみのある雰囲気です。めいめい落ち着いた感じで番を待っています。私もその中で4時間ほど待っていました。だいぶ落ち着いたとはいえ、以前お話したように初診は極めて大切なものです。30分の間に自分の問題を伝えきれないといけません。待っている間何回も何回も頭の中で話す内容を整理していました。

 

 やっと番が来て診察室に通されました。遅れてT先生が入ってこられました。お会いしてすぐにこの先生は信頼できる方だというのが分かり、頭の中にあったことをすべて吐き出しました。真剣に話を聞いて下さり、自分の思いが確かに伝わっていく感じがしました。初診が終わり、先生が出て行かれた直後、「これで命が助かった」と心の底から安堵したことを覚えています。よい医師は本当にあなたのこころの支えになってくださいます。待合室でさえあなたの心の居場所になってくれることでしょう。

薬に頼る

 精神科・心療内科の薬に対して怖がる方は多いと思います。自分もその一人でして、T先生はそれを察してしばらくは漢方薬のみの処方でした。抑肝散加陳皮半夏(ツムラ83番)という神経症とかに効く薬で、今も飲み続けています。漢方薬なので抵抗感はなかったです(ただし効き目も私が感じた限り緩やかで、一年ほどして効いてきたかな、あまり細かいことが気にならなくなってきたかな、という感じです)。

 

 初診後2週間ほどしてからレキソタンという不安を鎮める薬を頂きました。この薬はすぐに良く効きます。初めて飲んで横になった時、10分ほどで、あたたかな毛布に包まれた赤ん坊のような気持になって、こころが本当にやすらぎました。量は少なくしましたがこの薬も今も飲んでいます。ただ、効果は徐々に薄らいでいきます。同じ効果を得ようとすると量を増やすしかなく、つまり依存性のある薬です。そういう意味では少し危険な薬といえます。また、根本的な治療にはならない薬です(対処療法的)。

 

 それからしばらく経ち、私の性格を見定めてから先生はサインバルタという抗うつ薬を処方されました(抗うつ薬にもいろいろあり、患者の性格によって合う合わないがあるので)。抗うつ薬は副作用も強く、一旦飲み始めると簡単にはやめられない(減薬して安全に離脱するのに一年ほどかかる)と知っていたので、飲むのに抵抗がありましたが、先生を信頼していたのと、自分の状況がまた悪化していたので、思い切って飲み始めました。初めの1~2週間は副作用で一日中眠くて仕方なく、とにかく寝るしかありませんでした。あと、汚い話で申し訳ないですが、射精が出来なくなりました。性欲はあるのですが立たず何も感じず、達することが出来ないのです。これは、性欲は心の問題であると信じていた自分には衝撃的で、かつ大変つらかったです。ようやく射精できるようになったのは2か月後のことで、その達するのが非常に困難な状況は今も続いています(薬は変わりましたが今も抗うつ薬を飲み続けているので)。効く効かないに関しては両論あるようですが、私の場合は効いていると思います。飲み始めて数週間後の朝、外出した時に草木がきらめいて見え、とても爽快な気持ちを持ちました。今はずっと飲み続けているのでそういう気持ちはないですが、薬を飲み忘れた際、気分の落ち込みが起こるので、やはり効き続けているのかなと思います。人格が変わったりはしませんでした。

 

 現在他にもいろいろ薬は頂いていますが、補助的なものですので割愛させていただきます。全体的な副作用としては

  • 性欲に悪影響
  • 肥満
  • やたらと水分が欲しくなる
  • 眠気(私の場合はむしろありがたい)

です。私の場合はこの程度です。

 

 薬が怖いという気持ちはわかりますが、アルコールやニコチンにくらべたら遥かにましです。昔はともかく、いまはいろんな良いお薬が出ています。なお、飲酒欲求を抑える薬(レグテクト)もあり、私も処方していただいています。欲求が0にはなりませんが、酒屋へ飛んでいきたくなる衝動を抑えるのが容易になります。もっと早く知りたかった薬の一つです(ちなみに、酒を飲みたいときは炭酸水を飲んでしのいでおります)。良い精神科医・心療内科医なら、薬のみに頼らず、精神療法的会話でもあなたを支えてくださいますので、やたらと薬の量が増えていったりはしません。先のことを心配する前にまず今をいかに凌ぐかをお考えになって、服薬に踏み切られたらいかがでしょうか。気持ちが沈み切り、死んでしまっては元も子もありません。

結論

  話が長くなりましたが、結論としては良い精神科医・心療内科医に頼りましょう、という話です。デメリットがないわけではないですが、メリットの方がはるかに上回ります。

  • 始めに自分自身を賭けなければなりません(一度でよい先生と巡り合えるとは限りませんから)が、仕方のないことです。精神病棟に強制入院させられて人権を奪われる、などということも最悪あり得るでしょう。
  • 精神病患者となることも仕方のないことです。
  • でも、精神病患者になったから社会から烙印を押される、ということはほぼありません。通院しながら勤務している方だって大勢います。そもそも精神病患者だということが自分から言わない限りまずばれません(通院してるのを知った人に見られたりしたら別ですが)。ばれたらその相手から引かれる…ということはあるかもしれません。私の場合、もう4年ほど通院していますが、自分が伝えた相手以外誰にもばれたことがありません。

さらに家の外に居場所を作る

 初診からしばらくして、T先生の勧めで座禅会に通うようになりました(一回一時間を月二回、その後三年ほど通うことになります)。曹洞宗の寺院です。初回の感動は忘れられません。「こんな何もない自分でも生きてていいんだ」と体感できた貴重な経験でした。一泊二日の座禅会にも参加しました(その後7~8回参加)。他宗派(仏教)の会(泊りがけ含む)にもいくつか参加しました。また、小旅行に行くことも提案され、安価なフェリーで高松経由で直島や、九州の門司などへ泊りがけで行きました。直島を自転車で走り回ったり、途中の猫カフェで3匹の猫に大歓迎されてとても嬉しかったり(いきなり肩に飛び乗ってきたり、とても人懐っこい猫たちでした)、九州へ行くフェリー内のお風呂が豪華でびっくりしたり、いまでもよく覚えています。4泊5日の日程で映画のエキストラにもなったりしました。

 初診から日が浅いうちに「とにかく外に出なさい」という方針でいろいろ提案されて、「え、もう動き出していいのか、大丈夫なのか、そもそもなんの為なのか」と思いましたが、T先生を信頼していましたし、医師という権威ある人から指示されると意外と素直にできるものです。周りの協力も得やすいです。それに行動中は引きこもりではなくなります。座禅会への往復中は旅客、座禅中は参禅者、小旅行中は旅行者、エキストラの時はエキストラです。いわゆる普通の人と区別されたりすることはありません。時に「お仕事は?」と聞かれることがあるかもしれませんが、私は「きゅうしょくちゅうです」と答えてやり過ごしていました。「求職中」にも「休職中」にも聞こえて便利な言葉です。相手も大人なのでそれ以上は突っ込んで聞いてきません。

 

 外に出ていくことの利点は次の通りです。

  • 外にある楽しいこと、嬉しいことに出会えます。
  • 自分が引きこもりである、という事実から一時的に離れられます。とてもありがたいことです。
  • 家族や保護者から離れられます。関係が煮詰まっているとき、両者が一息付けます。
  • 家の外に居場所ができます

 特に家の外に居場所ができる、ということが重要です。家と医療機関の往復だけでは世界が狭すぎて、息が詰まってしまいます。時間限定とはいえ家の外にいくつか居場所をもてると、心の容積も拡がっていく感じがします。精神科医・心療内科医に通って状態が落ち着いてきたら、ぜひ行ける場所を探して行ってみてください。できれば勇気を出して、多少人と関わることのある座禅会のような、定期的で群れの中にある居場所を作られることをお勧めします。

 

(参考)時をかせぐ

 私の通っている医療機関にはデイケアがあって、月一回オープンカフェを開いておられました(現在はコロナのため休止中)。毎回お客として参加し、その和気あいあいとした様子がうらやましくて、私も参加を希望したのですが、先生いわく「うーん…」とのこと。どうも、私はうつ病ですがデイケアの利用者はそれ以外の病気の方が多く、私が入っていっても溶け込むのが難しいようなのです。なので、ホームページの活動表を参考に、作業療法的な部分を自分でやってみることにしました。織物、ユニット折り紙、ペーパークラフト、鉄道模型などです。特に鉄道模型は、シートから数百の座席を切り出して、一つ一つ模型に張り付けたりしました。作業中細かいことを忘れますし、小さな達成感と集中力は得られます。これはのちに引きこもり支援団体に通う時に役にたったかな、と思います。

 やはり家の外に居場所を作ることが理想とはいえ、家にこもらなければならない時間も多いと思います。そういうときに少し上記のことを参考にしていただければと思います。とくにペーパークラフトは良質なものをインターネットで無料でダウンロードできます。厚手の光沢紙に印刷すればかなり見栄えのするものがつくれます。

【重要】居場所のある引きこもり支援団体に通い、友人を持つ

 やっと(実質)最後の項にたどり着きました。冒頭に、

  • 「引きこもりは理解ある他者との交流を通じて生きる活力を取り戻せる」という信念は持っておりますが、その段階にたどり着ける方はそれほど多くはないのです(理由は後述)。

と書きましたが、もうすでに理由はみなさん分かっておられると思います。ここまでの長い手順を踏まなければならない(少なくとも自分は踏まなければならなかった)からです。なお、私は支援団体に通うのが早すぎ、一度デビューに失敗しております(再チャレンジしたのは一年半後でした…)。他にも、せっかく支援団体に通い始めたのにいろいろな事情で続けられず、来なくなった方も幾人か見ています。ですので、みなさんにはご自分のペースで、ゆっくり考えられたうえで支援団体に参加されればよいと思います。

 

 とはいえ、どこの支援団体に参加すればよいか…これはまた難題です。世間には「引き出し屋」と呼ばれるような、金のことしか考えずしかも暴力的な団体があります。そういう地雷に関わらず、時間をかけて選んでください。私の場合は精神科医のT先生から京都ARUを紹介していただいたので、選ぶ手間を省くことができました。ひきこもりに理解のある精神科医・心療内科医の紹介があればベストですが、なければこの段階で地域の公的機関に相談する(例えば京都市こころの健康増進センターのような)のが良いかもしれません。というのも、例えば京都府には約30ものひきこもり支援団体があり(参考:京都府ひきこもり支援情報ポータルサービス)、それぞれ方針、特色、年齢層など違っていて、自分に適したところを選ぶのは大変だからです。主な分類としては以下の通りです。

  • 伴走型⇔指導型
  • 就労を目的としない⇔職業訓練等行い、就労を目指す
  • 20代後半~50歳ぐらい対象⇔小中高の不登校生対象
    • ちなみに京都ARUは伴走型で就労を目的とせず(就労している人がいないわけではありません)、対象年齢は定まってはいませんが来られている方は20代後半~50歳ぐらいです。私にとっては理想の支援団体だと思っています。

 仮にどこの支援団体に連絡を取るか定まったとしましょう。でも、行ってみないと実際のところが分からないのは精神科医・心療内科医を決める時と同じで、全くの賭けです。しかも支援団体は一民間団体ですから、信頼おけるかどうかわかりません。そこに、「自分はひきこもりです」という、大きな弱みを伝えに行くわけです。怖くないはずがありません。精神科医から紹介をしてもらった私でさえ大変怖い思いをしました。電話を掛けるのさえ何時間も悩みました。初回面談の約束をし、当日ガチガチに緊張しながら出かけていき、一時間面談をしていただいたのですが、ほぼ何も覚えていません。面談後、「一緒にご飯を食べませんか?」と誘われましたがもう精神的にいっぱいいっぱいでして、そそくさと帰りました。部屋の内装すら思い出せません。「とりあえずおかしなところではなかった…」と安堵する思いと、「自分がひきこもりであることが(医師以外に)知られてしまった、さいころは振られてしまった…」と後悔する思いとが交錯して頭がぐちゃぐちゃでした。このあと一度だけ支援団体の活動に参加し、その後(誰が悪いわけでもないのですが)人に気を使いすぎてパニックになりまして、一年半支援団体と縁が切れることになります。私には早すぎたのです(一年半後、再びお願いして活動に参加させていただいたときは、だいぶ私も人慣れしていたので、緊張はしましたが特に問題なく過ごせました)。一歩を踏み出すことは本当に大変です。

 

 ではそのような大変な思いをして何が得られるか。即座に得られるものは次の通りです。

  • 所属感
  • 居場所
  • 家から出る口実

 時間をかけて得られるものは

  • 温かい人間関係、とくに同じひきこもり同士の横の温かい人間関係

です!まさしくこれこそが生きる活力の源になります。確かに温かい人間関係があってもあなたの背負っている荷物は減りません。しかし、温かい人間関係はあなたを確実に支えてくれます。良い方向に変えてくれます。人間関係の構築に、個人情報の吐露は不要です。私も京都ARUの友人の、詳しい事情はほとんど知りませんが、同じような傷を抱えた仲間である、ということは接していてわかります。それで十分です。もちろんはじめは緊張で言葉も出ないことでしょう。居場所にいるだけでも精一杯、ということもあるでしょう。しかし、いろいろなプログラムを経験する間に、人と接する機会も増えて、運の要素も大きいとはいえ、仲間意識が芽生えてきます。私は通い始めて2年ほど経って知らず知らずのうちに幼少期の社交的な性格が賦活され、非常に元気で明るくなれました。私の背負っている問題が減ったわけではありませんが、それに負けない力が付いたのです。

さいごに

 「人を癒すのは人しかない」これに尽きます。言い足りない所も見受けられると思いますが、また別の文章で補っていくつもりです。皆さんの幸運をお祈りします。ここまでお読みいただき、誠にありがとうございました。

 

暮里 燐

(最終更新日:2021年1月03日)